大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)74号 判決

一 請求原因事実中、本願発明について、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、発明の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の取消事由の有無について検討する。

1 引用例の記載内容について

引用例に原告主張の技術内容が記載されていることは、当事者間に争いがない。

ところで、不飽和ポリエステル樹脂が熱硬化性樹脂に属すること並びにガラス繊維基材のうち平織ガラス布(引用例ではC´で表わしている。)及びチヨツプドストランドマツト(同じくMで表わしている。)がそれぞれガラス繊維織布及びガラス繊維不織布に相当することは、原告の自認し、あるいは明らかに争わないところであり、また、成立に争いのない甲第二号証(引用例)によれば、引用例のものの製造対象たる「中型掃海艇の整流板」が積層品の一種であることが明らかであるから、これらの点を総合すると、審決が、引用例について「ガラス繊維を基材とした積層成形品の製造法が記載され、その基材の層構造として、ガラス繊維織布とガラス繊維不織布とを交互に積層し、最表面にガラス繊維織布があるように配置することが開示されている。」としたことは、原告の主張する技術内容を、いわば上位概念的用語によつて要約したものといつて差支えないものである。

したがつて、引用例の記載内容についてした審決の認定には誤りがないというべきである。

2 本願発明の製造方法について

原告は、その取消事由において、本願発明が「プリプレグ高温高圧積層法」によるものである旨を再三強調し、しかも、そのプリプレグとは、積層板の製造において、紙、布等の補強材に熱硬化性樹脂を含浸させたものを指す旨主張している。

まず、成立に争いのない甲第五、第六号証の各一、二、乙第一号証の一ないし四によれば、一般に、プリプレグの用語は、(a) 強化プラスチツク工業において、主としてガラス繊維の強化材に熱硬化性樹脂を含浸させたものを指す場合と、(b) 積層板の製造において、紙、布等の補強材に熱硬化性樹脂を含浸させたものを指す場合があることが認められるが、本願発明は、当事者間に争いのない発明の要旨に「熱硬化性樹脂を接着剤とし、ガラスクロス(ガラス繊維の織布)を主基材として積層成形品を製造するに際し、樹脂処理したガラスクロス……の層間に、……樹脂で処理したガラス繊維不織布を……配置し……ことを特徴とする積層成形品の製造方法」。とあることに徴して、積層成形品の製造方法ではあるが、その基材にガラス繊維の織布及び不織布を使用する点において、右(a)の意味におけるプリプレグによるものであることが明らかである。

次に、原告主張の「プリプレグ高温高圧積層法」なる特定の技術分野が存することについては、これを認めるに足りる証拠はない。そればかりでなく、本願発明の要旨は、前掲のとおりであつて、これには高温高圧に関する何らの規定もなく、また、成立に争いのない甲第三号証(本願発明の特許公報)によれば、明細書の発明の詳細な説明の項には、成形手段について、「ガラス繊維の織布(以下「ガラスクロス」と呼ぶ。)を主基材とし、これに熱硬化性合成樹脂を接着剤として積層成形するに際し、」(一欄一五行ないし一七行)とあるほか、「ガラスクロスを主基材として積層成形するに際して、……これを加圧成形するのである。」(三欄二行ないし九行)と記載されているだけであつて、他に、高温高圧について説明した記載のないことが認められ、右の「加圧成形」が直ちに高圧成形を意味するものでないことは多言を要しない。

もつとも、右発明の詳細な説明の項には、実施例1として、プリプレグを作りこれを温度一六〇度C、圧力四〇kg/cm2で積層成形する旨が記載されてはいるが、そのような実施例が示されているからといつて、それだけでは本願発明が「高温高圧」による積層法に限定されていると解することはできないし、他に、原告の前記主張を裏付けるに足りる証拠は存しない。

したがつて、本願発明がプリプレグ高温高圧積層法によるものであることを前提とする原告の主張は、いずれも失当であつて、採用することができない。

3 一致点の認定について

(一) 接着剤

本願発明における接着剤は、発明の要旨には熱硬化性樹脂とあるのみであつて、その明細書を調べても、その熱硬化性樹脂が特定の種類、性質のものに限定されていると解すべき記載は存しない。そうすると、引用例で使用される不飽和ポリエステル樹脂も、それが熱硬化性樹脂に属する以上、当然、本願発明における接着剤に包含されるものといわねばならない。

(二) 積層成形品

本願発明は、発明の要旨によれば、ガラス繊維を基材とした積層成形品の製造方法であることが明らかであり、その積層成形品の種類、性質、規模等何ら限定されていないし、明細書の記載上も同様である。

他方、引用例のものの製造対象がガラス繊維を基材とした、積層品たる「中型掃海艇の整流板」であることは、先に判示したとおりである。

原告は、引用例の積層成形品が大物である旨、また、本願発明の実施による製品が特殊の性質、用途のものである旨主張するが、本願発明において、その製造対象からいわゆる大物積層品が排除されていると解すべき根拠はなく、また、本願発明が原告主張のプリプレグ高温高圧法に限定されていない以上、その実施品が原告主張のような特殊のものであるということができない。

(三) 層構造

引用例の前掲記載内容によれば、引用例には、平織ガラス布C´(ガラス繊維織布)の層間にチヨツプドストランドマツトM(ガラス繊維不織布)を挿入し、かつ、平織ガラス布C´が積層品の最表面にあるように配置した二通りの層構造が記号的例示をもつて示されていることが明らかである。

そうすると、これと前掲本願発明の要旨とを対照すれば、本願発明において、「積層品の中心積層品に対しほぼ対称にかつ分散して」との限定が加わつている点を除き、本願発明と引用例とは、同一の層構造を備えているということができる。

(四) 以上のとおりであるから、審決が、本願発明と引用例のものを対比して、接着剤、対象たる積層成形品及び層構造(但し、本願発明における「積層品の中心積層面に対してほぼ対称にかつ分散して」との点は除く。)の点で一致するとした判断は正当であつて、原告主張のような誤りはない。

4 相違点の判断について

本願発明と引用例のものとの間に審決認定(1)ないし(3)の相違点のあることは、原告の争わないところである。

(一) 相違点(1)

前掲甲第三号証、第五、第六号証の各一、二、乙第一号証の一ないし四によれば、本願発明においては、積層成形品を製造する基材として、ガラス繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを用いるものであるが、そのようなプリプレグを必要枚数重ね合わせて圧縮し、一体の積層品を成形するいわゆるプリプレグ法は、本願出願前から強化プラスチツク工業の分野において常用されていた技術であることが認められる。

他方、引用例のものに用いられるハンドレイアツプ法とは、離型剤を施こした成形型にガラス繊維をあてがい、はけ等によつて樹脂をガラス繊維に塗布含浸させ、次いで、次のガラス繊維をその上にあてがつて樹脂を塗布含浸させるというように逐次積み重ね、樹脂の硬化後離型して成形する技術であることは、当事者間に争いがないところである。

そうだとすると、プリプレグ法が積層に用いる基材に関するものであるのに対し、ハンドレイアツプ法は、基材ではなく、積層方法自体に関するものであるから、両方法は、積層成形品の製造に際して、通常、そのいずれを採用するかという関係には立たない。別次元の技術であるということができる。

ところで、審決は、右に関して、両方法は技術、工法等に差異があるが、積層品の製造において常用されているから、ハンドレイアツプ法に代えてプリプレグ法を採択することは容易であるとするが、両方法をもつて、採択関係にある技術であるように把握したことは、右判示に照らし誤りであるといわざるをえない。

しかし、審決は、右説示に続いて、「そして、本願発明では、ガラス繊維織布とガラス繊維不織布との積み重ねにプリプレグ法を組合わせたことによる格別の効果も認められない。」としており、これに相違点(1)に対する判断の項全体を考え合わせると、同項における主眼は、両方法の互換が容易であるという点ではなく、引用例に示された「ガラス繊維織布とガラス繊維不織布との積み重ね」に常用手段たる「プリプレグ法」を組合わせて本願発明の構成とすることをもつて容易とする趣旨であると解するのが相当であるところ、プリプレグ法が本願出願前からの当該技術分野における常用技術であることは、前示のとおりであるところ、これに、積層成形材料であるプリプレグ自体が低圧で能率よく成形に用いうる性状のものであることを考え合わせれば、引用例の技術内容(但し、ハンドレイアツプ法の点は除外する。)にプリプレグ法を組合せた点について、進歩性を否定した審決の判断は、誤りであるとはいうことができない。

(二) 相違点(2)

(1) ガラス繊維織布の層間にガラス繊維不織布を挿入し、かつ、ガラス繊維織布が積層品の最表面にあるように配置した層構造が、記号的例示をもつて引用例に示されていることは、前示のとおりであり、さらに、前掲甲第二号証によれば、引用例のものは、右の層構造をとることによつて、積層品の強度を保持しながら、いかに経済性を得るかということ、また、技能未熟による仕上り厚さの不同を解決しようとしたものであることが認められる。

これに、先に判示した本願発明と引用例のものとの一致点を考えあわせるならば、強化プラスチツク工業分野における当業者が引用例に接した場合、引用例の前記層構造に「積層品の中心積層面に対してほぼ対称にかつ分散して」との限定を加えた本願発明の層構造に想到することは、容易であるといつて妨げないから、同旨の審決の判断に誤りはない。

原告は、これに関して、両者の層構造における発想、目的、意義等が全く異なる旨を種々主張する。しかし、いわゆる公知刊行物との対比において特許出願にかかる発明の進歩性を否定する場合、その刊行物に特定の先行技術自体が客観的かつ具体的に開示されていれば足りるものであつて、その先行技術の発想、目的、意義等が当該発明のそれと相違するかどうかは、関係のないことであるから、原告の主張自体失当であるというべきである。

(2) 原告は、両者の作用効果が全体的に異別である旨主張する。しかし、副次的なものであれ、引用例のものにも作業の容易性、厚さの正確性等の効果があることは、原告の認めるところである(他に、主要な効果があるからといつて、右効果の存在を否定することはできない)。

そして、本願発明においては、その要旨自体に「製品の機械加工性を改良することを特徴とする」ことが明示されているものであるが、前掲甲第三号証、特に、それから認めうる明細書の発明の詳細な説明の項の「かかる基材構成をとることによつて、薄いガラスクロスのみを基材とした積層品と全く変らぬ積層作業性を保持し、仕上り厚さの正確性、電気的特性、耐熱性などはガラスクロスのみの場合と差異のない優れた積層品を得る。しかも、この積層品は、打抜切削等の機械加工性が非常に優れ、打抜型、切削工具等の寿命を三ないし五倍も延長できる特徴をも具備し、」(三欄一二行ないし一九行)との説明から考えれば、本願発明において機械加工性の改良という効果を収めるのは、ガラス繊維織布の層間にガラス繊維不織布を挿入し、それを積層品の中心積層面に対してほぼ対称に分散させ、ガラス繊維織布が積層品の最表面にあるように配置した層構造によるものであつて、しかも、その効果は、ガラス繊維織布のみの基材を用いた積層品と比較した場合のものであることが認められ、したがつて、また、右効果は、基材としてプリプレグを用いたこと自体とは直接関係するものではないということができる。

ところで、引用例のものも、基材としてガラス繊維織布の層間にガラス繊維不織布を挿入し、かつ、ガラス繊維織布が積層品の最表面にあるように配置した層構造をとるものであるから、本願発明と同様、ガラス繊維織布のみの積層品との比較上、加工性の改良という効果を収めうるものとみるのが相当であつて、このことは、その効果が引用例に明記されていると否とを問わないものである。

したがつて、本願発明の層構造による作業性の容易性、厚さの正確性等の効果について、引用例のものとの対比上当然のものであるとした審決の判断は正当であつて、原告主張のような誤りはない。

(三) 相違点(3)

本願発明において、積層品の全仕上り厚さに対するガラス繊維不織布の合計仕上り厚さを一〇ないし五〇%に限定した理由が原告主張の点にあることは、被告の認めるところである。

しかし、一般に、積層品を製造する場合、基材をどの程度の量使用するかは、基材及び製品の性質・形状等に応じて当業者が適宜決めるものであることは、原告自身認めており、したがつて、特段の規定のない引用例のものについても、その製造に際しては、当然、その特有の事情に応じて積層品の全仕上り厚さに対するガラス繊維不織布のそれの割合が任意に選定されるものと解される。そして、本願発明における前記割合が一〇ないし五〇%という比較的大幅にわたるものである点を考慮すれば、引用例の積層品を製造しようとする者が右範囲内の割合を選定することは、むしろ容易なものと推定すべきであつて、本件において、右範囲内の割合を選定することが格別に困難であることを認めるに足りる資料は存しない(本願発明の明細書における発明の詳細な説明によるも、「不織布の混合割合を一〇ないし五〇%とした理由は、不織布が一〇%以下では機械加工性がさして改良されず、五〇%以上を混用した場合は厚さの精度が低下するからである。」と単に説明されているのみであり、また、その実施例に示されている、ガラスクロス厚さ〇・一〇mm、ガラス繊維不織布重量二五g/m3、積層品の構成例(試料番号2ないし7、9、10)及びその加圧成形後の仕上り厚さ平均値ほぼ一・六mm等の各数値その他を併わせ検討しても、右数値限定について前示判断を左右するに足りるものはない。)。

したがつて、本願発明における右割合をもつて、当業者の容易に定めえたものであり、限定量による顕著な効果もないとした審決の判断に誤りがあるということができない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

熱硬化性樹脂を接着剤とし、ガラスクロス(ガラス繊維の織布)を主基材として積層成形品を製造するに際し、樹脂処理したガラスクロスとガラスクロスの層間に、処理に用いた樹脂と同一又はこの樹脂と熱接着の可能な他の樹脂で処理したガラス繊維不織布を、積層品の中心積層面に対してほぼ対称にかつ分散して挿入し、ガラスクロスが積層品の最表面にあるように配置し、また、ガラス繊維不織布の合計仕上り厚さが積層品の全仕上り厚さに対して一〇ないし五〇%になるよう構成させることにより、厚さの正確性とその他の特性をガラスクロス基材のみの積層品と同等に保持し、しかも、積層成形時の作業性を容易にし、かつ、製品の機械加工性を改良することを特徴とする積層成形品の製造方法

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